写真・文:澤村 徹
SHOTENの距離計連動型ヘリコイド付きマウントアダプター、M42-LM R50とPK-LM R50が発売になった。M42マウントおよびペンタックスKマウント用のカプラーだ。
オールドレンズファンならば、カプラーという言葉を何度か耳にしたことがあるだろう。カプラーとはCouplerのことで、距離計連動に対応したマウントアダプターだ。コンタックスC、アルパ、プロミネントあたりのカプラーが有名だが、SHOTENから強烈なカプラー、M42-LM R50とPK-LM R50が登場した。M42マウントとペンタックスKマウント、そう、オーソドックスな一眼レフ用レンズを距離計連動させるマウントアダプターだ。ちなみに、既存のカプラーがそうであるように、本製品も50ミリレンズ専用となっている。
カプラーとはわかりやすく言うとヘリコイド付きのマウントアダプターで、いわゆるマクロアダプターに似た構造だ。ただし、ボディ側マウントが距離計連動可能なライカMになっている。マウントの内側にカムがあり、これでボディ側のコロを押し込む。こうすることでライカMマウントレンズと同じように、装着したレンズがM型ライカで距離計連動するのだ。つまり、お気に入りのオールドレンズをM型ライカのレンジファインダーでピント合わせできるようになる。タクマー、イエナ、リケノンなど、手頃なオールドレンズが軒並みレンジファインダーで使えるわけだ。
無論、この手の製品は諸手を挙げて歓迎…とはいかない。つい身構えてしまう。なぜなら、製品によって距離計連動精度にバラつきがあるからだ。これまでオールドレンズとライカの長き歴史の中で様々なカプラーが作られ、そして精度が低いゆえに市場から姿を消し、また精度にこだわりすぎてビジネスとして成立しなくなり、同じく市場から姿を消したカプラーが多々あるのだ。筆者自身も距離計連動しないカプラーの洗礼を幾度なく受けており、新製品が出たからといって大喜びするほどウブではない。
しかし今回、販売元から製品を借り受けた際、「距離計連動精度に自信あり」とひと言添えてあった。自らハードルを上げるのだから、距離計連動精度に相当自信があるのだろう。実際に撮影してみると、絞り開放でバシバシとピントが合う。単にヘリコイドアダプターにカムを付けただけでなく、ちゃんと調整した状態で出荷されているのだろう。タクマー、イエナ、ペンタックスといった手頃なレンズが、M型ライカのレンジファインダーでテンポよく撮影できるのだ。このギャップがたまらない。
M42-LM R50ならびにPK-LM R50の使い方だが、装着したレンズのピントリングを∞マーク(無限遠)にセットし、その後レンジファインダーをのぞいてマウントアダプター側のピントリングを動かして二重像を合致させる。レンズのピントリングを∞マークにセットしておくのが基本型だ。
なぜ基本型という言い方をしたのかというと、そうではないケースが少なからずあるからだ。実のところ、大切なのは∞マークではない。“実質的な無限遠位置”なのだ。
装着するレンズと本製品の組み合わせ次第では、∞マークだとオーバーインフになってしまう場合がある。オーバーインフのままレンジファインダーで撮影しても、後ピンの写真を量産するだけだ。レンズのピントリングを正確に“実質的な無限遠位置”にセットしなくてはならない。
セット方法は簡単だ。ライブビューおよびEVFで無限遠(遠景)にジャストでピントを合わせる。拡大表示を使い、厳密に無限遠にピントを合わせよう。オーバーインフ状態だと、レンズの∞マークよりわずかに手前で無限遠に達するはずだ。撮影中にレンズのピントリングがズレると元の木阿弥なので、パーセルテープなどでピントリングを固定しておくといいだろう。
このように実質的な無限遠位置にセットすると、絞り開放のままレンジファインダーでバシバシとピントが合う。本製品を使う上でもっとも重要なポイントだろう。ちなみに、本製品は距離計連動を微調整する機構を備えているが、微調整する前にまずはライブビューで実質的な無限遠位置をセットしてほしい。筆者が試用した印象では、本製品は調整済みの状態で出荷されており、ユーザーによる微調整を必要とする場面は少ないだろう。
試写ではF1.4からF2.8の標準レンズをいろいろと試してみたが、F1.4のレンズが開放でスピーディーにピント合わせできることに心揺さぶられた。普段ミラーレスでF1.4の標準レンズを使う場合、必ず10倍程度まで拡大して厳密にピント合わせするのが常だった。これが正直なところ面倒くさい。でもイメージセンサーが高解像度化する昨今、緻密なピント合わせは必須だ。ところがM42-LM R50とPK-LM R50ではレンジファインダーの二重像でサクサクとピントが合う。無論、レンジファインダーは二重像の見え方の問題で被写体の手不得手があるものの、それを差し引いてもスピーディーなピント合わせだ。こういう高精度なレンジファインダー操作を裏で支えているのが、実はライブビューによる“実質的な無限遠位置”の割り出しなのだと思うと、本製品はライブビュー全盛だからこそ登場し得たカプラーなのだという気もする。最新式ファインダーのライブビューが、往年のレンジファインダーを救う。何とも奇妙な関係性だ。
さて、M42-LM R50とPK-LM R50が距離計連動するレンズは焦点距離50ミリのみとなっている。しかし、マウントアダプターである以上、50ミリ以外のレンズも装着自体は可能だ。では、若干50ミリを前後するようなレンズは距離計連動しないのだろうか。多少ピントがズレる程度なら、工夫次第でレンジファインダーで撮れないものだろうか。そんな淡い期待を抱きつつ、M42-LM R50でPancolar 55mmF1.4を、PK-LM R50でsmc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited、NF-LM R50(プロトタイプ)でNikkor-S・C Auto 55mmF1.2を試してみた。結果は惨敗。大きくピンボケしていて距離計連動しなかった。やはり距離計連動については50ミリ専用だった。
なお、本シリーズは他マウントの展開も予定されている。今後、Yashica/CONTAX、Nikon F、Exaktaがリリース予定だという。ヤシコンでプラナーが、ニコンFでニッコールが、エキザクタでトリオプランやクセノンが、距離計連動で使えるようになる。これはもう期待するなというのが無理な話だ。