澤村徹のカメラガジェット放浪記 第23回「カプラーのニューフェイス登場」SHOTEN M42-LM R50/PK-LM R50


写真・文:澤村 徹

 

SHOTENの距離計連動型ヘリコイド付きマウントアダプター、M42-LM R50とPK-LM R50が発売になった。M42マウントおよびペンタックスKマウント用のカプラーだ。

 

M42-LM R50(右)とPK-LM R50(左)

 

 

オールドレンズファンならば、カプラーという言葉を何度か耳にしたことがあるだろう。カプラーとはCouplerのことで、距離計連動に対応したマウントアダプターだ。コンタックスC、アルパ、プロミネントあたりのカプラーが有名だが、SHOTENから強烈なカプラー、M42-LM R50とPK-LM R50が登場した。M42マウントとペンタックスKマウント、そう、オーソドックスな一眼レフ用レンズを距離計連動させるマウントアダプターだ。ちなみに、既存のカプラーがそうであるように、本製品も50ミリレンズ専用となっている。

 

カプラーとはわかりやすく言うとヘリコイド付きのマウントアダプターで、いわゆるマクロアダプターに似た構造だ。ただし、ボディ側マウントが距離計連動可能なライカMになっている。マウントの内側にカムがあり、これでボディ側のコロを押し込む。こうすることでライカMマウントレンズと同じように、装着したレンズがM型ライカで距離計連動するのだ。つまり、お気に入りのオールドレンズをM型ライカのレンジファインダーでピント合わせできるようになる。タクマー、イエナ、リケノンなど、手頃なオールドレンズが軒並みレンジファインダーで使えるわけだ。

 

 

直進式ヘリコイドを搭載し、無限遠から0.7メートルまで距離計連動が可能だ。純粋にマクロアダプターとしても利用できる。

マウントアダプター側のピントリングはフォーカシングレバーを装備。ライカレンズを操作しているようなフィーリングを実現する。

無論、この手の製品は諸手を挙げて歓迎…とはいかない。つい身構えてしまう。なぜなら、製品によって距離計連動精度にバラつきがあるからだ。これまでオールドレンズとライカの長き歴史の中で様々なカプラーが作られ、そして精度が低いゆえに市場から姿を消し、また精度にこだわりすぎてビジネスとして成立しなくなり、同じく市場から姿を消したカプラーが多々あるのだ。筆者自身も距離計連動しないカプラーの洗礼を幾度なく受けており、新製品が出たからといって大喜びするほどウブではない。

 

しかし今回、販売元から製品を借り受けた際、「距離計連動精度に自信あり」とひと言添えてあった。自らハードルを上げるのだから、距離計連動精度に相当自信があるのだろう。実際に撮影してみると、絞り開放でバシバシとピントが合う。単にヘリコイドアダプターにカムを付けただけでなく、ちゃんと調整した状態で出荷されているのだろう。タクマー、イエナ、ペンタックスといった手頃なレンズが、M型ライカのレンジファインダーでテンポよく撮影できるのだ。このギャップがたまらない。

 

M42-LM R50ならびにPK-LM R50の使い方だが、装着したレンズのピントリングを∞マーク(無限遠)にセットし、その後レンジファインダーをのぞいてマウントアダプター側のピントリングを動かして二重像を合致させる。レンズのピントリングを∞マークにセットしておくのが基本型だ。

本製品は距離計連動の微調整が可能。カムのネジを緩めて調整する。ただし、そもそも調整済みの状態で出荷されているので、この機能に興味本位で手を出すのは避けた方がいい

撮影時はレンズのピントリングを∞マークにセットする。これが基本型となるセッティングだ。ただし、この状態でオーバーインフになるときはピントリングの位置を再検討しなければならない。

なぜ基本型という言い方をしたのかというと、そうではないケースが少なからずあるからだ。実のところ、大切なのは∞マークではない。“実質的な無限遠位置”なのだ。

 

装着するレンズと本製品の組み合わせ次第では、∞マークだとオーバーインフになってしまう場合がある。オーバーインフのままレンジファインダーで撮影しても、後ピンの写真を量産するだけだ。レンズのピントリングを正確に“実質的な無限遠位置”にセットしなくてはならない。

 

セット方法は簡単だ。ライブビューおよびEVFで無限遠(遠景)にジャストでピントを合わせる。拡大表示を使い、厳密に無限遠にピントを合わせよう。オーバーインフ状態だと、レンズの∞マークよりわずかに手前で無限遠に達するはずだ。撮影中にレンズのピントリングがズレると元の木阿弥なので、パーセルテープなどでピントリングを固定しておくといいだろう。

 

ライブビューで実質的な無限遠位置にセットしたところ。レンズ指標が∞マークの左端を指しており、∞マークより手前で無限遠にピントが合っていることがわかる。この状態をパーセルテープで固定しておくと、レンジファインダー撮影の操作がスマートだ。

 

このように実質的な無限遠位置にセットすると、絞り開放のままレンジファインダーでバシバシとピントが合う。本製品を使う上でもっとも重要なポイントだろう。ちなみに、本製品は距離計連動を微調整する機構を備えているが、微調整する前にまずはライブビューで実質的な無限遠位置をセットしてほしい。筆者が試用した印象では、本製品は調整済みの状態で出荷されており、ユーザーによる微調整を必要とする場面は少ないだろう。

 

M42-LM R50にPancolar 50mmF1.8(左)とSuper-Takumar 50mmF1.4(右)を装着して試写した。パンカラーはオーバーインフだったので実質的な無限遠位置にセットして撮影。スーパータクマーは∞マークでジャストで無限遠にピントが合った。

 

Leica M11 + M42-LM R50 + Super-Takumar 50mmF1.4 絞り優先AE F1.4 1/3200秒 ISO64 AWB RAW 電球にレンジファインダーでピントを合わせる。比較的近距離での撮影だが、開放F1.4でピタリと合焦した。

 

Leica M11 + M42-LM R50 + Pancolar 50mmF1.8 絞り優先AE F1.8 1/250秒 ISO64 AWB RAW 左手の赤いケースにピントを合わせた。レンズのピント位置は実質的な無限遠位置にセットしており、それが功を奏してレンジファインダーで狙い通りに合焦してくれた。

 

試写ではF1.4からF2.8の標準レンズをいろいろと試してみたが、F1.4のレンズが開放でスピーディーにピント合わせできることに心揺さぶられた。普段ミラーレスでF1.4の標準レンズを使う場合、必ず10倍程度まで拡大して厳密にピント合わせするのが常だった。これが正直なところ面倒くさい。でもイメージセンサーが高解像度化する昨今、緻密なピント合わせは必須だ。ところがM42-LM R50とPK-LM R50ではレンジファインダーの二重像でサクサクとピントが合う。無論、レンジファインダーは二重像の見え方の問題で被写体の手不得手があるものの、それを差し引いてもスピーディーなピント合わせだ。こういう高精度なレンジファインダー操作を裏で支えているのが、実はライブビューによる“実質的な無限遠位置”の割り出しなのだと思うと、本製品はライブビュー全盛だからこそ登場し得たカプラーなのだという気もする。最新式ファインダーのライブビューが、往年のレンジファインダーを救う。何とも奇妙な関係性だ。

 

PK-LM R50にsmc PENTAX-A 50mmF1.4(左)とXR Rikenon 50mmF2(右)を組み合わせた。ペンタックス-A 50ミリのピントリングは実質的な無限遠位置にセット。リケノンは∞マークにセットして実写を行った。

 

Leica M11 + PK-LM R50 + smc PENTAX-A 50mmF1.4 絞り優先AE F1.4 1/1000秒 ISO64 AWB RAW ソフトクリームの文字の部分にピントを合わせる。カプラーを使って、中近距離でこれだけシャープに合焦するのは快感だ。

 

Leica M11 + PK-LM R50 + XR Rikenon 50mmF2 絞り優先AE F2 1/320秒 ISO64 AWB RAW 左上段の鉢植えにピントを合わせた。レンジファインダー中央の二重像でピントを合わせた後、被写体を左に寄せたが、幸いコサイン誤差は気にならないレベルだ。

 

さて、M42-LM R50とPK-LM R50が距離計連動するレンズは焦点距離50ミリのみとなっている。しかし、マウントアダプターである以上、50ミリ以外のレンズも装着自体は可能だ。では、若干50ミリを前後するようなレンズは距離計連動しないのだろうか。多少ピントがズレる程度なら、工夫次第でレンジファインダーで撮れないものだろうか。そんな淡い期待を抱きつつ、M42-LM R50でPancolar 55mmF1.4を、PK-LM R50でsmc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited、NF-LM R50(プロトタイプ)でNikkor-S・C Auto 55mmF1.2を試してみた。結果は惨敗。大きくピンボケしていて距離計連動しなかった。やはり距離計連動については50ミリ専用だった。

 

今後発売予定のNF-LM R50を試用できた。ここではAi Nikkor 50mm f/1.4Sを装着。レンズのピントは実質的な無限遠位置にセットしてある。

 

Leica M11 + NF-LM R50 + Ai Nikkor 50mm f/1.4S 絞り優先AE F1.4 1/640秒 ISO64 AWB RAW 中央の赤い花に開放F1.4でピントが合う。この近距離で、しかも開放でだ。ライブビューでも手間取るような撮影条件を、レンジファインダーでサクッと切り取る。この優越感がたまらない。

 

なお、本シリーズは他マウントの展開も予定されている。今後、Yashica/CONTAX、Nikon F、Exaktaがリリース予定だという。ヤシコンでプラナーが、ニコンFでニッコールが、エキザクタでトリオプランやクセノンが、距離計連動で使えるようになる。これはもう期待するなというのが無理な話だ。


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