写真・文:澤村 徹
2021年の年末にα7 IVを買って以来、どれだけこの日を待ちわびたことだろう。ついにようやくやっと、テックアートLM-EA9が発売になった。前モデルのLM-EA7はα7 IVで動作が不安定だったため、後継機を心待ちにしていたのだ。
LM-EA9はα7 IV、α7R IV、α9 IIなど、ソニーEマウント最新機に対応したAFマウントアダプターだ。無論、最新機対応だけでなく、根本から大きく性能アップしている。ひと目でわかるのが外観の違いだ。前モデルのLM-EA7は下部が大きく出っ張り、そこにモーターが内蔵されていた。LM-EA9はこの出っ張りがなくなり、普通のマウントアダプターのような円形デザインだ。放射状に4基のモーターを配置し、4軸サポートでマウント面を動かす。これによって従来よりもAF動作が速くなり、最大500グラムのレンズをガタつきなく動作させることが可能だ。速く、力強く。それがLM-EA9のアドバンテージである。
この円形デザインの採用にともない、装着時に干渉するレンズがいくつかある。フォーカシングレバーがマウント面に位置するレンズ、たとえばElmar 3.5cmF3.5とかSummaron 2.8cmF5.6は、フォーカシングレバーがLM-EA9の外周部と干渉して装着できない。この手のレンズを装着する際は気を付けよう。
AF動作は従来からのAF-S、AF-Cに加え、顔/瞳AFに対応した。テスト撮影中にたまたま選挙ポスターがフレームインしたことがあり、ポスターの顔を認識してジャスピンで撮影できた。ポートレートを撮影する人には即戦力になりそうだ。焦点距離登録は32パターンに増え、きめ細かくレンズの焦点距離が登録可能。焦点距離に応じたF値をセットしてシャッターを切り、以降はF2にセットして撮影する。これで装着したレンズの焦点距離がボディに登録され、手ブレ補正機能が最適化される仕組みだ。また、α7 IVの場合、AF/MF切り換えはファンクションメニューの「フォーカスモード」で実行できる。α7 IIIとLM-EA7では「再押しAF/MFコントロール」をカスタムボタンに登録しておく必要があったが、α7 IVとLM-EA9の組み合わせではFnメニューから速やかにAF/MFを切り換えられる。AFマウントアダプターはレンズによってAFが悩む場面が少なくない。MFにすばやく切り換えられるのはありがたい。
さて、これから実写レポートしていくわけだが、今回ぜひとも試したいことがあった。それはフォーカスエリアについてだ。テックアートの製品に限ったことではないが、AFマウントアダプターは多かれ少なかれ使いこなしが必要だ。その代表格がフォーカスエリア。AFマウントアダプターはα7系の場合、「スポットS」で使うのがお約束である。これをそろそろ卒業したい。LM-EA9はフォーカスエリアを「ワイド」にしてどの程度使いものになるのか。これを焦点距離の異なる3本のレンズで試してみた。
1本目はTTArtisan APO-M 35mm F2 ASPH.だ。アポクロマート仕様の開放から文句なくシャープに写る広角レンズである。フォーカスエリアを「ワイド」にして絞り開放で撮影する。サクサクとピントが合う。シャープなレンズなのでピントの山がつかみやすいのだろう。ノンストレスで気持ちよく撮影できた。極端な構図でない限り、スポットSの出番はなさそうだ。加えて、LM-EA9は合焦中に動作音が静かだ。静音性もLM-EA9の利点として挙げておきたい。
2本目はSummilux 50mmF1.4、通称貴婦人でで撮影した。実はこのレンズ、AFマウントアダプターとあまり相性がよくない。これまで前モデルのLM-EA7を筆頭に様々なAFマウントアダプターと組み合わせてきたのだが、フォーカスエリアをスポットSにしてもAFが悩む場面が多々あった。ところが今回、フォーカスエリアを「ワイド」にしてLM-EA9で撮ったところ、まずまずのパフォーマンスだった。シャッター半押しで合焦するまでに一瞬タメがあるのだが、ピント精度は出ている。AF速度は1本目のTTArtisan APO-M 35mm F2 ASPH.のほうが速いが、これまで難儀してきた貴婦人をワイドで使えるというだけで感極まりそうだ。
最後は広角レンズとしてElmarit-M 28mmF2.8を試してみた。一応、フォーカスエリアを「ワイド」にした状態で合焦するが、パフォーマンスはよろしくない。合焦ランプが点るまでに時間がかかり、時々迷うこともある。ただ、そもそも被写界深度の深い広角レンズなので、シャッターが切れさえすれば合焦しているといった感じだ。LM-EA9に限らず、AFマウントアダプターは広角レンズで動作がすぐれないことがたびたびある。そういう意味では広角レンズによくあるパターンといえるだろう。ただし、スポットSではなくワイドで撮ってこの状態だ。ワイドがそれなりに使えている点は評価したい。
LM-EA9で3本のレンズを試し、ワイドがそれなりに使えることがわかった。これは大きな収穫といえるだろう。もちろん、スポットSは高精度に動作するし、いよいよとなればカメラ側のFnメニューで速やかにMFに切り換えられる。α7 IVとLM-EA9の組み合わせは文句なく好相性だ。なお、メーカーによると、現状のファームウェア(バージョン1.5)は新型センサーを搭載したソニーEマウント機にモーターの動作を最適化しているという。たとえばα7 IIIのようなひと世代前のボディだと、また異なった動作結果になるかもしれない。本レポートはあくまでもα7 IVとLM-EA9の組み合わせの結果という点を踏まえてほしい。