澤村徹のカメラガジェット放浪記 第22回「円形デザインで速く力強く」TECHART LM-EA9


写真・文:澤村 徹

 

 

2021年の年末にα7 IVを買って以来、どれだけこの日を待ちわびたことだろう。ついにようやくやっと、テックアートLM-EA9が発売になった。前モデルのLM-EA7はα7 IVで動作が不安定だったため、後継機を心待ちにしていたのだ。

 

LM-EA9はα7 IV、α7R IV、α9 IIなど、ソニーEマウント最新機に対応したAFマウントアダプターだ。無論、最新機対応だけでなく、根本から大きく性能アップしている。ひと目でわかるのが外観の違いだ。前モデルのLM-EA7は下部が大きく出っ張り、そこにモーターが内蔵されていた。LM-EA9はこの出っ張りがなくなり、普通のマウントアダプターのような円形デザインだ。放射状に4基のモーターを配置し、4軸サポートでマウント面を動かす。これによって従来よりもAF動作が速くなり、最大500グラムのレンズをガタつきなく動作させることが可能だ。速く、力強く。それがLM-EA9のアドバンテージである。

 

左が前モデルのLM-EA7、右が新モデルのLM-EA9だ。旧来の出っ張りがなくなり、円形のスマートなデザインになった。

 

モーターを円形に沿って4基配置することで、動作速度、耐荷重、安定性を向上させている。LM-EA9のもっとも大きなアップデートポイントだ。

 

マウント面が前後してMFレンズをAF化する。マウント面の繰り出し量は4.5ミリで、これは前モデルから変わりない。

 

この円形デザインの採用にともない、装着時に干渉するレンズがいくつかある。フォーカシングレバーがマウント面に位置するレンズ、たとえばElmar 3.5cmF3.5とかSummaron 2.8cmF5.6は、フォーカシングレバーがLM-EA9の外周部と干渉して装着できない。この手のレンズを装着する際は気を付けよう。

 

一部のライカレンズはマウント面にフォーカシングレバーがある。このようなレンズはフォーカシングレバーがLM-EA9の外周と干渉し、装着できないことも。写真はElmar 3.5cmF3.5だ。

 

AF動作は従来からのAF-S、AF-Cに加え、顔/瞳AFに対応した。テスト撮影中にたまたま選挙ポスターがフレームインしたことがあり、ポスターの顔を認識してジャスピンで撮影できた。ポートレートを撮影する人には即戦力になりそうだ。焦点距離登録は32パターンに増え、きめ細かくレンズの焦点距離が登録可能。焦点距離に応じたF値をセットしてシャッターを切り、以降はF2にセットして撮影する。これで装着したレンズの焦点距離がボディに登録され、手ブレ補正機能が最適化される仕組みだ。また、α7 IVの場合、AF/MF切り換えはファンクションメニューの「フォーカスモード」で実行できる。α7 IIIとLM-EA7では「再押しAF/MFコントロール」をカスタムボタンに登録しておく必要があったが、α7 IVとLM-EA9の組み合わせではFnメニューから速やかにAF/MFを切り換えられる。AFマウントアダプターはレンズによってAFが悩む場面が少なくない。MFにすばやく切り換えられるのはありがたい。

 

前モデルはBluetooth経由でファームアップしていたが、LM-EA9はファームアップ用にUSBドックが付属。USBケーブルでパソコンとつなぎ、ファームアップを行う。

 

さて、これから実写レポートしていくわけだが、今回ぜひとも試したいことがあった。それはフォーカスエリアについてだ。テックアートの製品に限ったことではないが、AFマウントアダプターは多かれ少なかれ使いこなしが必要だ。その代表格がフォーカスエリア。AFマウントアダプターはα7系の場合、「スポットS」で使うのがお約束である。これをそろそろ卒業したい。LM-EA9はフォーカスエリアを「ワイド」にしてどの程度使いものになるのか。これを焦点距離の異なる3本のレンズで試してみた。

 

1本目はTTArtisan APO-M 35mm F2 ASPH.だ。アポクロマート仕様の開放から文句なくシャープに写る広角レンズである。フォーカスエリアを「ワイド」にして絞り開放で撮影する。サクサクとピントが合う。シャープなレンズなのでピントの山がつかみやすいのだろう。ノンストレスで気持ちよく撮影できた。極端な構図でない限り、スポットSの出番はなさそうだ。加えて、LM-EA9は合焦中に動作音が静かだ。静音性もLM-EA9の利点として挙げておきたい。

 

α7 IV + LM-EA9 + TTArtisan APO-M 35mm F2 ASPH. 発売間もない銘匠光学の現行レンズだ。アポクロマート仕様で開放から切れ味のよさに定評がある。

 

α7 IV + TTArtisan APO-M 35mm F2 ASPH. 絞り優先AE F2 1/500秒 ISO100 AWB RAW フォーカスエリアをワイドに設定して撮影。左側のオブジェに速やかにピントが合う。動作音も静かだった。

 

α7 IV + TTArtisan APO-M 35mm F2 ASPH. 絞り優先AE F2 1/2500秒 ISO100 AWB RAW アルファベットのJとAをフレームの中央に収め、ワイドでピントを合わせる。切れ味よく捉えている。

 

α7 IV + TTArtisan APO-M 35mm F2 ASPH. 絞り優先AE F2 1/160秒 ISO100 AWB RAW ガラス越しの撮影だが、トレンチコートに速やかに合焦した。AFが悩みそうなシーンだが杞憂だった。

 

2本目はSummilux 50mmF1.4、通称貴婦人でで撮影した。実はこのレンズ、AFマウントアダプターとあまり相性がよくない。これまで前モデルのLM-EA7を筆頭に様々なAFマウントアダプターと組み合わせてきたのだが、フォーカスエリアをスポットSにしてもAFが悩む場面が多々あった。ところが今回、フォーカスエリアを「ワイド」にしてLM-EA9で撮ったところ、まずまずのパフォーマンスだった。シャッター半押しで合焦するまでに一瞬タメがあるのだが、ピント精度は出ている。AF速度は1本目のTTArtisan APO-M 35mm F2 ASPH.のほうが速いが、これまで難儀してきた貴婦人をワイドで使えるというだけで感極まりそうだ。

 

α7 IV + LM-EA9 + Summilux 50mmF1.4 一般に貴婦人と呼ばれる大口径標準レンズ。ソフトなタッチで、逆光ではフレアが出やすい。

 

α7 IV + Summilux 50mmF1.4 絞り優先AE F1.4 1/8000秒 ISO100 AWB RAW フォーカスエリアをワイドにして撮影。ピントの中抜けが心配だったが、拡声器のあたりにうまく合焦した。ただし、シャッター半押しから合焦までにワンテンポ遅れる印象だった。

 

α7 IV + Summilux 50mmF1.4 絞り優先AE F1.4 1/5000秒 ISO100 AWB RAW ワイドだとヤツデの葉に合焦してしまった。スポットSに切り換えて自転車のキャリアにピントを合わせる。AFスピードは速くはないが、ピント精度は出ている。

 

α7 IV + Summilux 50mmF1.4 絞り優先AE F1.4 1/8000秒 ISO100 AWB RAW このレンズは逆光に弱い。フレアの射す状態でワイドにて撮影。フレアをものともせず鳥居に合焦した。

 

最後は広角レンズとしてElmarit-M 28mmF2.8を試してみた。一応、フォーカスエリアを「ワイド」にした状態で合焦するが、パフォーマンスはよろしくない。合焦ランプが点るまでに時間がかかり、時々迷うこともある。ただ、そもそも被写界深度の深い広角レンズなので、シャッターが切れさえすれば合焦しているといった感じだ。LM-EA9に限らず、AFマウントアダプターは広角レンズで動作がすぐれないことがたびたびある。そういう意味では広角レンズによくあるパターンといえるだろう。ただし、スポットSではなくワイドで撮ってこの状態だ。ワイドがそれなりに使えている点は評価したい。

 

α7 IV + LM-EA9 + Elmarit-M 28mmF2.8 第2世代と呼ばれるレトロフォーカス型を採用した広角レンズ。オールドライカレンズらしい落ち着いたトーンが魅力だ。

 

α7 IV + Elmarit-M 28mmF2.8 絞り優先AE F2.8 1/3200秒 ISO100 AWB RAW フォーカスエリアをワイドにして開放無限遠撮影した。中央の高速道路にしっかり合焦している。

 

α7 IV + Elmarit-M 28mmF2.8 絞り優先AE F2.8 1/80秒 -0.7EV ISO100 AWB RAW 近接でも問題なく合焦するが、AFがやや迷い気味だった。ピント精度は上々で、自転車の輪郭がシャープに描かれている。

 

α7 IV + Elmarit-M 28mmF2.8 絞り優先AE F2.8 1/2500秒 ISO100 AWB RAW 要素の多いシーンをワイドで撮影する。狙い通り、ステンドグラスに合焦してくれた。

 

LM-EA9で3本のレンズを試し、ワイドがそれなりに使えることがわかった。これは大きな収穫といえるだろう。もちろん、スポットSは高精度に動作するし、いよいよとなればカメラ側のFnメニューで速やかにMFに切り換えられる。α7 IVとLM-EA9の組み合わせは文句なく好相性だ。なお、メーカーによると、現状のファームウェア(バージョン1.5)は新型センサーを搭載したソニーEマウント機にモーターの動作を最適化しているという。たとえばα7 IIIのようなひと世代前のボディだと、また異なった動作結果になるかもしれない。本レポートはあくまでもα7 IVとLM-EA9の組み合わせの結果という点を踏まえてほしい。

 


 



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