一色卓丸|アポレンズで魅せるポートレート『TTArtisan APO-M 35mm f/2 ASPH.』

TTArtisan APO-M 35mm f/2 ASPH.

 

銘匠光学 TTArtisanから、再び魅力的なレンズが発売された。「TTArtisan APO-M 35mm f/2 ASPH.」は、アポクロマート設計の広角レンズだ。高い解像力と正確な色表現を実現したという。
アポクロマートレンズとは、簡単にいうと輝度差がある時に発生しやすいパープルフリンジなどの色収差を抑えたレンズのことで、高価な望遠レンズや大口径レンズに使われていることが多い。近年だとライカ社の「アポズミクロン」というモンスターレンズが有名で、解像力と描写性能、価格ともにずば抜けている感がある。

 

TTArtisan APO-M 35mm f/2 ASPH.は、非球面レンズ、特殊低分散レンズなどの9群12枚で構成されており、他の35mm広角レンズと比べて、見た目が大きく重量感がある。「APO-M」という名の通り、M型ライカボディに最適化された設計で描写力も高い。ライカのような重厚でクラシックな鏡胴デザイン、また雰囲気を一層引き立てる角形レンズフードも付属している。レンズフードには、ゴム製のレンズキャップも付いていて安心感がある。

 

このような高性能のアポクロマート設計のTTArtisan APO-M 35mm f/2 ASPH.だが、他のレンズメーカと比べて格段に安い価格帯で発売されている。果たして写りの方はいかに?と関心を集めている話題のレンズである。個人的にも発売前から関心があり、今回の撮影は楽しみだった。今回はスペシャルゲストとして、女優の田中美麗さんをお迎えして、ポートレート撮影を行った。


モデル:田中美麗
撮影・文:一色卓丸
ヘアメイク:高橋涼子
撮影アシスト:永井太一
撮影機材:LEICA M10-P + TTArtisan APO-M 35mm f/2 ASPH.

 

 

ISO200 F2.0 1/500 AWB RAW

強い日差しの中、撮影を開始した。木漏れ日による光と影が混在する難易度の高いシーンを、F2.0で開放撮影。すると簡単にキレのある描写が得られた。髪の毛の部分も、開放撮影でも繊細に解像している。35ミリの広角レンズだが、中望遠レンズ並みに被写体に立体感が感じられる。アポクロマート設計により色収差を抑えているためか、背景の緑や空に抜け感があり、高価な望遠レンズの描写のようだ。
他社の広角アポレンズの開放撮影では、周辺減光が見られるというが、このレンズに関しては周辺減光がまったく見られなかった。

 

ISO200  F2.0  1/500  AWB RAW

最短撮影距離は0.7mとそれほど短くはない。だが、被写界深度が望遠レンズよりは深く、比較的広い範囲を写せる焦点距離ということもあって、開放撮影でもバンバン寄っていける楽しさがある。ピントが合った瞳の立体感、周辺部の柔らかいボケなど、描写も素晴らしく優しい雰囲気だ。背景の煩くなりがちな光の玉ボケも、色収差が少ないせいか、綺麗にボケてすっきりとしている。レンズの絞り羽根10枚による、ほぼ円型の丸ボケが気持ち良い。

 

ISO200  F2.o  1/1500  AWB RAW

 

標準35ミリのf2.0は、f1.4クラスの開放よりボケが大袈裟じゃないので、程よく背景がボケて被写体にもピントが来やすい。マニュアルでのポートレート撮影もしやすいと思う。
キレのある描写で、人物の立体感や奥行きの抜け感、電話ボックスの白い壁や透明なガラスの質感をリアルに表現している。久しぶりに空気感が写るようなレンズに出会えた気がする。

 

ISO200  F2.o  1/750  AWB RAW

意外だったのは、強い逆光下の撮影で色が付いたフレアが発生したことだ。オールドレンズのようなフレアで、ポートレート作品にうまくいかすと面白いと思う。フレアが発生していても程よいコントラストがあり、描写の解像感がほとんど落ちていないのが良いと思った。

 

ISO400  F2.8  1/750  AWB RAW

 

f2.8に絞って撮影するとかなり端正な印象になる。繊細な解像感で、風で揺れている髪の毛などリアルな描写が得られる。

 

ISO200  F2.8  1/1500  AWB RAW

f2.8の順光撮影では、被写体に更なる立体感を感じさせる。色収差が少ないせいか、植物の緑がうるさく感じられる背景も、緑の色ノリがすっきりとして綺麗だ。淡い空と雲の階調もしっかりと写しとった。

 

ISO400  F2.0  1/750  AWB RAW

前ボケに関しては、広角レンズ35ミリの特性上あまり期待していなかったが、手前の葉のボケに色収差は感じられず、すっきりと、かつ柔らかくボケてくれた。植物やコンクリート、洋服の質感もしっかりと写し分けるので描写にリアルさを感じる。

 

ISO400  F2.0  1/1000  AWB RAW

アンダー気味で撮影。シャドウ部の階調もなだらかで綺麗だ。難しい黒髪の描写も繊細に解像しているのがわかる。

 

ISO400  F2.0  1/3000  AWB RAW

今回はあえて自然の多い撮影地を選んだが、色収差の少ないアポレンズは、花や植物を生き生きと写す気がした。難しいハイライト部も、とても綺麗に撮れたのには感心した。

 

TTArtisan APO-M 35mmは、繊細な描写と階調豊かな色合いを表現し、雰囲気のあるポートレートを作り出してくれた。最近は他社からもアポクロマート設計の広角、標準レンズが出てきている。これからのポートレート撮影にはアポレンズを使うカメラマンも増えてくるかもしれない。


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