昨今のカメラ業界はフィルターブームに沸いている。動画業界においてフィルターワークはスタンダードだが、その波はスチル業界にまで押し寄せ、現在は発売が終了した特殊効果をもたらすフィルターの人気も再燃している。そのきっかけとなったのが、ブラックミストフィルターであるというのは誰もが知るところではないだろうか。今回紹介する、K&F CONCEPT NANO-X ブラックディフュージョンは製品名では「ブラックディフュージョン」と記載があるが、ブラックミストと同等の効果である「ハイライト部が大きく飽和し、それ以外の部分は解像度を保ったまま写真全体が淡く軟化する」と言う特徴を持っている。焦点工房直販モデルでは「K&F CONCEPT NANO-X ブラックミスト」となっているものもあり、メーカーも同じ仕様と言っているためブラックミストフィルターを購入したいという方は安心して本製品を購入しよう。今回はこの「ブラックディフュージョン」の効果ごとの違いや従来のソフトフィルターとの違い、ポートレートやスナップでの使用方法を紹介していこう。
本製品は効果が最も弱い1/8フィルターから、効果が最も強い1/1フィルターまで存在する。1/8、1/4、1/2、1/1と4種類展開されており、フィルター径は最小49mmから最大82mmまで用意。49mmより小さいフィルター径のレンズをお持ちの方は、K&F CONCEPTからリリースされている「ステップアップ&ダウンリング」を利用しよう。ステップアップ&ダウンリングはフィルター径を変更できるアダプターリングの事で、例えば、49mm径を43mm径にダウン、49mm径を52mm径にアップすることができる。1セット持っていればほかの汎用フィルターにも利用できるなど、非常に利便性の高い製品である。そういった意味から、82mm径を購入し、ステップダウンリングで自分が持つレンズに調整するのが便利だ。一方で、フィルターが大きいとカメラによってはファインダーを隠してしまう事やフードが付けられないなど、物理的な影響もあることから、そこはトレードオフと考えたい。メインで使うレンズのフィルター径と合わせるのが最も良い選択肢となるだろう。また、フィルターを付けることで、露出が1/3段程低下するためマニュアル撮影などで露出を計算する場合はそれを念頭に置く必要がある。
さて、前置きはこのくらいにして実際撮影した描写を見ていこう。フィルターの効果をわかりやすく言うと、ハイライト部の光が大きく飽和し、それ以外の部分は薄いソフトフィルター効果がかかるイメージだ。1/8から1/1まで全てのフィルターを使った感じだと、最も使いやすいのが1/4フィルター。1/8は効果が最も薄いため、日中の光が強いタイミングでさりげなくフレアの様な効果を出すのに有効。1/2と1/1は効果をより強く出し、日陰でもその効果が分かるくらい写真が淡くなる。特に1/1は最も幻想的になり、雰囲気作りに一役買ってくれる。半面、1/4は、「あ、確かに明るい部分はふんわりしている」くらいのもので使いやすく、部分的に狙った作品であればその効果をうまく享受できる。それではまず、フィルターありなしの違い、屋内外での効果の比較を見て行こう。
これらの比較画像は同じF値で露出を揃えたもの。写真左上のハイライト部分が、フィルターの効果量に比例して淡くなっているのがわかる。その他の領域も比例して霞がかった描写になるが、影の部分は効果が薄い。次は屋内の比較結果を見てみよう。
作例では白の領域が多いため、直接光が当たってなくとも写真全体に淡さが追加されている。特に影響があるのはハイライトに加えて、ガラスなど透明度のある部分だ。これはおそらく光の反射が影響しており、他と比べやや効果が強くなっていると考えられる。続いて、同じシーンで日中と夜間の効果量の違いを見て行こう。
夜間は日中の様に光がないため、主にライトなど光源部分のみの効果になる。一方日中の場合は、影や光が直接当たっていない部分においても、拡散光があるため全体的が淡くなるのが特徴である。夜間はスッキリ、日中は淡くと言うのがイメージしやすいだろう。次に他社ソフトフィルターとの差を見て行こう。
ブラックディフュージョンとソフトフィルターとの違いは、「解像度の保持」と「主にハイライト部に見られる飽和効果」である。ソフトフィルターは写真全体の滲み効果が大きく、細部を拡大すると若干解像度が落ちていることがわかるが、反面ブラックディフュージョンにおいては解像度への影響はわずかとなる。また、ソフトフィルターが全体に均等な飽和効果をもたらす一方、ブラックディフィージョンは全体に薄く効果があるものの、ハイライト部分の効果が強く表れるのが見て取れる。どちらが優位という差はなく、「どのような表現をイメージし、フィルターを選択するか」ということが最も重要である。表現のゴールに合わせてフィルターを選択することを念頭に置こう。どちらにも言えることはコントラストが大きく低下すること。表現にもよるが、不必要に落ちてしまったコントラストについては現像作業でシャドウや黒レベル等を復元するといった対応が必要となってくるだろう。
スナップからポートレートまで様々なシーンで活用ができるが、夜間、日中でそれぞれ表情が異なる。夜間であれば、光源の周りにのみ効果が見られるため、常に光が降り注ぐ日中よりも限定的な効果を得られる。日中も光の当たるハイライト部分に強い効果が表れるが、晴れの日などは単純に光量が多いため夜間よりも全体に効果が見られるというのが異なる点だ。ともかく、光がある、もしくは当たる部分に大きな影響があるということを念頭に入れておいていただきたい。
さて、いかがだっただろうか。ハイライト部が大きく飽和し、それ以外の部分は解像度を保ったまま写真全体が淡く軟化するイメージと述べたブラックディフュージョンだが、効果が大きくなればなるほど、軟化=コントラストの低下は進むため、現像等後処理での適度なコントラストの調整は必要であると言える(今回の作例では露出を補正し、シャドウ部をわずかに-に傾け締めている)。やはり既存のフィルターにはない強みはその効果を部分的に利用できる点だ。あとは好みに合わせたフィルターの濃度を選ぶことで、自分好みの表現仕上げることができるだろう。シャドウと黒レベル領域をどのように処理するかで大きく味付けが変わるため、自分に合った表現を導き出そう。1枚あると表現に事欠かないフィルターであることは間違いないだろう。これらを参考に、是非、ブラックディフュージョンを用いた表現手法を確立していただきたい。