「TTArtisan 35mm F1.4 ASPH」を世に送り出した銘匠光学から、待望の「TTArtisan 50mm F1.4 ASPH」が登場した。35㎜ F1.4に惚れ込んだ筆者が、発売から約1か月、様々なシチュエーションで撮影を試みた。結論から言うと35mm F1.4と同様、いや、それ以上に「買い」のレンズであると断言したい(しかもなぜか35mm F1.4よりも低価格で筆者は若干混乱気味 笑)。様々な試写の結果、描写性能は35mm F1.4を確実に超えていると感じており、それが結果にも表れている。AFが使えないという欠点を持ち合わせてはいるが、SONY α7シリーズであれば「TECHART LM-EA7」を利用することでAF化が可能であるため実に快適に利用できる。今回α7Ⅱでの作例は全てTECHART LM-EA7を用いているため、ピント精度なども参考にしていただきたい。作例は全てRAWで撮影し、ノートリミングかつ露出の調整のみ行っている。また、フィルムLeicaユーザのために、一部ではあるがフィルムでの作例も用意している。
写真・文=鈴木 啓太|urban モデル=Jin
[Leica M10 + TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH:絞り優先AE F1.4 1/500秒 ISO200 AWB RAW] ピントは自転車のハンドルに合わせている。周辺光量落ちが緩やかで自然と中心の被写体に引き寄せられる。
[Leica M10 + TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH:絞り優先AE F1.4 1/1000秒 ISO200 AWB RAW] 明暗が強いシーンでの1枚だが、シャドウからハイライトまで破綻がない。
[SONY α7Ⅱ + TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH:絞り優先AE F1.4 1/800秒 ISO100 AWB RAW] TECHART LM-EA7を併用した最短での撮影。ピント面とボケを明確に分離させられるかが、写真の立体感に大きくかかわってくる。
[Leica M10 + TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH:絞り優先AE F1.4 1/50秒 ISO2000 AWB RAW] 絞り開放でも色収差の発生はなく、夜景や逆光下でも臆することなく使っていける。
明暗のコントラストを美しく描く。逆光下でフレアとゴーストのチェックをしてみたが逆光耐性はかなり強く、かなり無理をさせてようやくわずかなゴーストが出る程度。フレアはやや発生しやすいため、できればフードを用いたいところだ。
描写性能が高く、スナップや風景とバランスよく使っていけると感じた。デジタルLeicaでの距離計連動精度に多少不安もあったが、本レンズの特徴でもある距離計連動調整機能を使わずとも開放から気持ちよくピントを合わせることができている。勿論、距離計連動調整機能の有無は大きく、自身のカメラに確実にピントが合うよう調整できるため、非常に重宝する。欠点を強いてあげるとすれば重量だが、400gと現行最新のAFレンズと比べれば雲泥の差。だが、金属の質感からかズシリと重みを感じる。まさにレンズが「詰まっている」と感じる重さだ。ただ、不快な重さではなくボディとのマッチングも含め扱いやすい重さ、そして大きさであると言えるだろう。それでは、引き続きポートレートの作例を紹介して行こう。
[SONY α7Ⅱ + TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH 絞り優先AE F1.4 1/1250秒 ISO100 AWB RAW] バストアップのボケ感は見事。ボケが大きくなりがちなため、F値をF2~4程度とすることで周辺情報と被写体をマッチングさせることができる。
[SONY α7Ⅱ + TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH 絞り優先AE F1.4 1/800秒 ISO100 AWB RAW] 開放でも収差はほぼみられない。発色、肌や葉のトーンも美しく、同価格帯のレンズでは1歩先を行く印象だ。
[SONY α7Ⅱ + TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH 絞り優先AE F8.0 1/200秒 ISO100 AWB RAW] 歪みはほぼ皆無といっても良いレベル。絞り込むことで光量落ちなど四隅の性能も十分改善される。
[Leica M10 + TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH 絞り優先AE F2.8 1/3000秒 ISO200 AWB RAW] コントラストが高いシーンも丁寧に描く。ハイライトに露出を合わせているが、シャドウ部も締りが良くデータ上の黒潰れも見られない。
[SONY α7Ⅱ + TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH 絞り優先AE F1.4 1/640秒 ISO100 AWB RAW] 解像力のあるレンズだけあり、描写はやや硬めだが撮影方法で柔らかくもできる。これはガラスの反射と白い壁をレフ代わりにしている。
ポートレートにおいては色収差を含む各収差の発生がほぼないところが、安心して絞り開放を使って行ける大きな要因だろう。寄りと引きで描写をコントロールでき、特に立体感を得たい場合は全身が入る3~5メートル、周辺光量落ちを効果的に使うのであれば日の丸構図で全身~バストアップがレンズの特徴を活かしやすい。
解像力の高さがもたらすメリットはもう一つある。それはフィルムカメラで使ったときに発揮される諧調性とのマッチングだ。フィルム時代のレンズは、いわばオールドレンズと言われ収差が残り、独特の、あせたコントラストの低いトーンが特徴だ。現行レンズと全く違った描写から、筆者も含めライトユーザからヘビーユーザまで多くのカメラファンを虜にしている。そんな中、最近筆者がおすすめしているのは、現行レンズとフィルムカメラの組み合わせだ。フィルムの粗さが現行レンズの解像力を中和し、新たな化学変化を起こす。そのシャープさと柔らかさが同居する、絶妙な描写を併せてご覧いただこう。
[Leica M6 + TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH マニュアル F1.4 1/1000秒 ISO200 Kodak Gold200] 開放最短距離がわかりやすい作例の一つだ。フィルムの柔らかなノイズ感と温かみのあるカラー、そして諧調性はデジタルとは一線を画す。だが、ピント面の立体感は健在で正に良いとこ取りだ。
[Leica M6 + TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH マニュアル F8 1/250秒 ISO200 Kodak Gold200] フィルムでの遠景は解像力が重要になってくるが、写真店の150万画素程度のスキャンでも窓ガラスなどはっきり解像していることがみてとれる。
[Leica M6 + TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH マニュアル F8 1/250秒 ISO200 Kodak Gold200] 歪みのチェックも併せて実施してみた。ややたる型収差の様に見受けられるが、ほぼ気にならない範囲。
[Leica M6 + TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH マニュアル F2.8 1/1000秒 ISO400 Kodak BW400CN] ボケと解像力のバランスが良い。フィルムカメラではF2.8~8までを多用するためより解像度の向上が望める。
[Leica M6 + TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH マニュアル F2.8 1/1000秒 ISO400 Kodak BW400CN] 柔らかな光の描写まで繊細に描く。フィルムならではの特徴だ。
[Leica M6 + TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH マニュアル F1.4 1/125秒 ISO400 Kodak BW400CN] フィルムの絞り開放でも、デジタルで紹介してきた特徴を感じることができる。期限切れのフィルムということも相まって粒子感が強くなっているが、そこがまたフィルムの魅力の一つ。
LeicaMマウントのフィルムカメラを持つユーザの方は、ぜひお気に入りのフィルムと組み合わせて使っていただきたい。描写の特徴はフィルムとデジタルで変わらないが、デジタルでの表現とは全く異なり、1本で2度おいしい表現が可能だ。デジタル写真がマンネリ化していて…と悩みを抱える方にこそ体験していただきたい表現方法の一つである。
さて、最後は同じシーンでF値を変化させてみた作例を掲載する。ご覧いただきたいのはその写りの一貫性だ。描写が一貫しているということは、F値を純粋なボケのコントロールに使えるということだ。撮影をよりシンプルに考えることが可能になり、より良い作品を生み出すためだけに集中することができる。違いが分かりにくいため、隅の拡大画像を用意した。F4あたりから徐々に描写が改善されていくのがわかるはずだ。写真全体の解像度はF5.6~8がベスト。中心解像度は開放から高いため、大きな差に気づくことは難しいだろう。
いかがだっただろうか。LeicaMマウントユーザはLeica純正レンズにあこがれを持っている方も多いと思うが、写りの良さは純正に匹敵するといってもいい。価格差を考えるのであれば、そのコストパフォーマンスは計り知れない。実際、筆者もオールドレンズはLeica純正オールドレンズを使用し、現行レンズはTTArtisanシリーズをメインに使っているほど惚れ込んでいる。厳密に言えば現行のLeica純正レンズはまた描写が少々異なるため、どちらが良いとは一概に言えない。しかし数百本以上のレンズを使った身でさえ1ショット目で、んんん!?と驚倒しかけたことは書き記しておきたい。今後リリースされるTTArtisanの新レンズはこのレベルを超えてくるのか、今からとても楽しみである。
写真・テキスト / 鈴木 啓太|urban