様々なマニュアルレンズを発売している七工匠から、AF対応のレンズ『7Artisans 85mm F1.8 AF』が発売された。これまで中国のレンズメーカーは、電子接点のないマニュアルフォーカスレンズを中心に、価格を抑えつつも個性的な製品を数多く展開してきたが、最近では、オートフォーカス対応のレンズが登場し始めている。そのリーズナブルな価格は、気にはなっていたが、「中国製の電子系AFレンズって大丈夫なのか?」という不安も少なからずあった。
今回は、ニコンZマウント対応のものを使用してポートレート撮影を行い、その使用感や描写について、レポートしていく。
中国製レンズは、他社製を含めて個性的なデザインのものが多い印象だったが、この「7Artisans 85mm F1.8 AF」は金属製で重厚感のあるシンプルな造り。絞り指標も備えており、どこかクラシカルな雰囲気がある。ニコン純正の「Z 85mm f/1.8」は鏡筒に表示が一切ないため、絞り指標のあるこちらの方が個人的にはカッコよく見える(笑)。撮影時の絞り操作は、レンズ側の絞りリングを使って直接調整することもできるし、絞り値を「A」に合わせれば、カメラボディ側の絞り機構でコントロールできるのも有難い造りだ。また、鏡筒部にはFnカスタムボタンも備えられており、カメラ側の各種機能を割り当てて使う事もできる。
撮影・文:一色卓丸
モデル:Kesenia
ヘアメイク:相川ニコ
焦点距離85mmの中望遠レンズは、特に女性のポートレート撮影で好まれる焦点域だが、この「7Artisans 85mm F1.8 AF」においても、美しく滑らかなボケのある描写は中望遠レンズ特有の写りだ。たとえば、大輪のバラのような花を背景にした場合、絞り開放にするとボケがうるさく感じられることがあるが、このような85mmクラスになると、とろけるような自然なボケが作りやすい。絞り羽根が11枚という贅沢な設計で、滑らかなグラデーションを生み出してくれる。ピント面の描写も繊細で、AFのスピードは爆速というほどではないが、迷いなくスッと合焦してくれるため、テンポ良く撮影を進めることができた。
85mm中望遠レンズならではの圧縮効果により、被写体が浮き出るような立体感が得られるのは、この焦点域の大きな魅力。少し絞って、しっかりと被写体にピントを合わせても、背景は大きくぼけてくれるので、とても絵作りがしやすい。
被写体と背景の距離があまり取れない場面でも、背景が自然にぼけて被写体と馴染んでくれるため、バストアップの撮影では特に重宝する。最短撮影距離は0.8mと比較的近いが、顔のアップを撮る際も適度に距離が取れるため、パースの歪みが出にくく自然な印象に仕上がる。最短距離での開放撮影は、標準の50mmレンズに比べておよそ1.5倍ほどボケるような感覚だ。そして、薄いピント面は非常にシャープで、立体感のある描写が得られる。
7Artisans 85mm F1.8 AFは、開放F1.8からF3.5あたりの絞り値でも、背景がなだらかにぼけ、立体感のある描写が簡単に得られる。中望遠レンズはある程度被写体との距離が必要だが、その距離感とボケ味を活かせば、街中でも背景を美しくぼかした写真が撮りやすい。周囲の雑多な要素をやわらかく処理しつつ、被写体を自然に引き立ててくれるのがこのレンズの魅力のひとつだ。
ショーウインドーの近距離撮影ではガラスの写り込みも滑らかで、金網の前ボケは大きく溶け込むダイナミックなボケ味になっている。
絞り優先モードにして絞り値による描写の変化を比べてみた。F1.8の開放はもちろんだがF3.5くらいまで絞り込んでも、背景が大きくボケるのも85ミリ中望遠レンズの強みだ。
背景に何もない狭い室内での撮影でも、85mm中望遠レンズの特性を活かせば、独特の立体感と美しいボケを持ったポートレートが手軽に撮影できる。しかもこの「7Artisans 85mm F1.8 AF」は、入手しやすい価格帯だ。ふだん35〜50mmあたりの標準域のレンズでポートレートを撮っている人も、中望遠レンズを1本加えるだけで、描写の幅がぐっと広がる。ポートレート撮影がさらに楽しく感じられるだろう。
モデル2人目:Poli
ヘアメイク:大見萌夏
普段の仕事では、国産のカメラとレンズを使っており、レンズにおいて最新のAF性能に頼るのは今では当たり前の感覚だ。そんな中、ここ1〜2年でAFレンズの分野にまで、中国製の低価格な機材が進出してきたのは驚きだった。最近は、国内メーカーの機材が信じられないほど高額になってきており、新しいレンズを購入するにもなかなか踏み出しづらい。その点、国内メーカーの半額ほどで手に入る7Artisansのレンズは、初心者でも気軽に試せる存在だろう。実際に使ってみると、精度や造りの面では日本製の製品にまだ及ばない部分もあるが、写りは十分なレベルで、日常的な撮影においては全く問題を感じなかった。今後さらに精度が高まっていけば、中国製AFレンズは現実的な選択肢として、より存在感を増していきそうだ。
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