澤村徹のカメラガジェット放浪記 第26回「周九枚で往年の広角を味わう」LIGHT LENS LAB M 28mm f/2.8
Posted:2024年11月8日 Category:Column

写真・文:澤村 徹
第1世代のElmarit 28mm F2.8を9枚玉と呼ぶ。登場は1965年で、6群9枚構成のため9枚玉と呼ばれることが多い。生産数が約3,000本と少なく、いわゆるレア玉として人気があった。そんな9枚玉を再現したのが、このLIGHT LENS LAB M 28mm f/2.8、通称周九枚である。LIGHT LENS LABはいつもながら渋いところを突いてくるなあと、感嘆することしきりだ。

周九枚に付属のクリップオン式フードを装着したところ。この佇まい、まさに9枚玉と12501そのものだ。写真のブラックに加え、シルバーもラインアップしている。

被写界深度目盛が斜めに配置され、鏡胴にクビレが生まれている。この独自デザインが9枚玉の大きな魅力だ。周九枚でも同等のデザインを踏襲し、9枚玉らしさを再現している。
9枚玉はちょっとした曰く付きのレンズだ。対称型を採用していたため、後玉が大きく飛び出している。そのためライカM5やCLでは使用不可レンズだった。1972年にはレトロフォーカス型に変更した第2世代が登場し、扱いやすいことから生産数も7,000本と伸びている。実用性ではもちろんレトロフォーカス型の第2世代以降に軍配が上がるが、レンズマニアにとって対称型の広角レンズはレンジファインダー機の特権みたいなものだ。後玉が撮像面に近い対称型レンズは、光がダイレクトに届くようなロマンがある。そんな9枚玉の中古価格は100万円前後。おいそれと手を出せる価格ではない。こうした背景をもとに周九枚は登場したのだ。

無限遠ロック付きのフォーカシングレバーを搭載。これも9枚玉の仕様を再現したギミックだ。無限遠位置でカチッと音が響き、実に小気味よい。

左は第2世代初期のElmarit 28mmF2.8だ。9枚玉に似たクビレのある鏡胴を採用している。右の周九枚と比べてもそっくりだ。ちなみに、第2世代はレトロフォーカス型のレンズだ。

対称型の9枚玉をほぼそのまま再現しているため、後玉が後方に飛び出している。しかし、デジタルM型ライカで支障がないように、オリジナルより出っ張りを抑えてあるという。

金属製の前後レンズキャップが付属する。リアキャップはMマウント用だが、後玉の飛び出しを考慮して深めのデザインに。こういう気づかいはとてもありがたい。
外観はクビレのある鏡胴をそのまま再現している。このクビレは9枚玉人気の大きな要因のひとつで、何があっても外せない。また、12501を模したクリップオン式のレンズフードが付属。この肉厚の角型フードもライカユーザーには人気のアイテムだ。オリジナルの12501は樹脂製だが、付属のクリップオン式フードはアルミ合金を採用。オリジナルよりも質感と耐久性が上がっている。
レンズは6群9枚の構成を踏襲しつつ、後玉の飛び出しを抑えて周辺色かぶりを低減している。オリジナルは三角っぽい玉ボケだが、周九枚ではそれを楕円に改善。オリジナルの落ち着きのあるトーンを保ちつつ、デジタルカメラで扱いやすい描写に調整している。

Leica M11 + LIGHT LENS LAB M 28mm f/2.8 絞り優先AE F2.8 1/3200秒 ISO64 AWB RAW:水門が連なりシルエットと化す。目を凝らすと、シャドウからディテールを浮かび上がる。オールドライカレンズでよく見かける写りが、周九枚なら難なく撮れる。

Leica M11 + LIGHT LENS LAB M 28mm f/2.8 絞り優先AE F2.8 1/500秒 -0.67EV ISO64 AWB RAW:建物を見上げ、直線の美しさを実感する。周辺部でも歪曲は気にならず、直線を思いのままに配置できる。
LIGHT LENS LABが手がけるオマージュレンズはふたつの向き合い方がある。ひとつは撮り比べだ。オリジナルレンズをすでに持っていて、復刻版と撮り比べるというパターンだ。周八枚の登場時はこうしたユーザーが多かったように思う。もうひとつは代替品としての購入だ。オリジナルレンズがあまりに稀少で、かつ価格も高騰して事実上入手が不可能。こういうレンズをLIGHT LENS LABのオマージュレンズで体験しようというわけだ。周九枚はどちらかと言えば後者のタイプに属するだろう。本物の代わりとして手元に置きたくなるレンズ。周九枚ことLIGHT LENS LAB M 28mm f/2.8はそんなレンズだ。

Leica M11 + LIGHT LENS LAB M 28mm f/2.8 絞り優先AE F2.8 1/2000秒 -0.67EV ISO64 AWB RAW:新旧の建物が折り重なる様子を撮影した。開放から切れ味良好。周辺光量落ちが多めで、それがいい雰囲気を醸し出す。

Leica M11 + LIGHT LENS LAB M 28mm f/2.8 絞り優先AE F2.8 1/320秒 -0.67EV ISO64 AWB RAW:近接で黒い配管にピントを合わせる。被写界深度の深い広角ということもあり、距離計連動は申し分ない。

Leica M11 + LIGHT LENS LAB M 28mm f/2.8 絞り優先AE F2.8 1/350秒 ISO64 AWB RAW 気持ちアンダー目での撮影だが、シャドウの奥からじわじわと被写体が顔を出す。普通の現行レンズだとストンと暗くなるところだ。

Leica M11 + LIGHT LENS LAB M 28mm f/2.8 絞り優先AE F2.8 1/90秒 -0.67EV ISO64 AWB RAW オレンジのコートにピントを合わせる。広角とは言え、開放F2.8だとちゃんと背景がボケてくれる。表情豊かなレンズだ。

Leica M11 + LIGHT LENS LAB M 28mm f/2.8 絞り優先AE F5.6 1/125秒 -0.67EV ISO64 AWB RAW 絞り込むとコントラストが強くなり、明暗差の大きいシーンも印象深く捉えてくれる。影が美しい。

Leica M11 + LIGHT LENS LAB M 28mm f/2.8 絞り優先AE F2.8 1/2500秒 -0.67EV ISO64 AWB RAW 開放のどこかのっぺりした写りがオールドレンズらしくていい。それにしても周辺光量落ちが大きく、ありきたりな被写体がドラマチックに写る。

Leica M11 + LIGHT LENS LAB M 28mm f/2.8 絞り優先AE F2.8 1/800秒 ISO64 AWB RAW 逆光だとフレア・ゴーストが出やすい。開放は画面全体にフレアが回り、絞るとビーム状になってくっきりと見える。ノスタルジックな写りだ。

Leica M11 + LIGHT LENS LAB M 28mm f/2.8 絞り優先AE F4 1/160秒 -0.67EV ISO64 AWB RAW 明暗差の大きいシーンだが、高架下のシャドウも日の当たるハイライトも、トーン豊かに捉えている。ライカ好きにはたまらない写りだ。
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